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現役医師であり統合医療の第一人者である崎谷医師が、うつ病の症状・原因・治療に悩む方に対して情報を発信しています。

うつ病の医学ニュース(12)

抗うつ薬の使用と成人の自殺リスクは若年層で強く連関している

25歳未満の若年層では、抗うつ薬を使用する者では自殺行動や自殺念慮の確率が 62%以上大きく、自殺行動のみのリスクでは2倍を超えることが分かった(『British Medical Journal』8月12日号オンライン版)。25歳から64歳までの層では影響はほとんどないが、65歳以上の層では自殺行動や自殺念慮のリスクが63%減少したと報告されています。

成人を対象にした抗うつ薬のプラセボ対照短期試験での自殺完遂に関するFDAの独立分析といった、成人を対象にこの問題を調査した複数の研究では、抗うつ薬と自裁念慮および自殺行動との間に関連性は見つかっていない。しかし、著者らは、この結論はこの試験における自殺完遂数が少ないために説得力が十分ではないと述べている。

抗うつ薬が小児および青年の自殺傾向を増加させる可能性があるという懸念を受けて、FDAは 2003年に、ランダム化プラセボ対照試験のデータ分析を行なった。この分析により、抗うつ薬治療を受けている者はプラセボ治療を受けた者に対して、自殺 行動と自殺念慮の相対リスクが1.95であることが明らかになり、2005年には抗うつ薬の添付文書に囲み警告が加えられるようになった経緯があります。

若年患者におけるこうした知見に基づき、FDAは同様の効果について成人でも再検討することを決定した。抗うつ薬を製造する企業8社が、公表済みおよび未公表の成人を対象にした抗うつ薬ランダム化試験から、自殺念慮と自殺行動に関するデータを提供した。

合計372本のプラセボ対照試験、対象患者99,231名のデータが再検討された。試験の主要転帰項目は、自殺行動(自殺完遂、自殺企図、自殺準備行動として定義される)と自殺念慮などである。

被験者の年齢中央値は42歳であり、63.1%が女性であった。治療の適応症は、大うつ病(45.6%)、その他のうつ病(4.6%)、その他の精神疾患(27.6%)、精神疾患以外の疾患(22.2%)であった。

今回の研究では、自殺完遂が8例、自殺企図が134例、自殺企図を伴わない準備行動をとった患者が10例、実際には行動に及んでいない自殺念慮を持つ患者が378例あった。

「抗うつ薬使用に伴う自殺傾向のリスクは年齢に強く依存する。25歳未満の成人では、小児で見られたものと同じように、自殺傾向と自殺行動のリスクがプラセボに比べて増加した。」

「自殺行動に対する正味の効果は中立のように思えるが、25歳から64歳までの成人では自殺念慮に対する防御効果があるようであり、65歳以上では自殺傾向と自殺行動の両方のリスクを減少させると思われる」と著者らは結論で述べている。

オクスフォード大学(英国)の疫学精神科教授であるJohn Richard Geddes, MDとヴェローナ大学(イタリア)のグループが、元の臨床試験のもつ性質から、この研究の知見には「原理的不確実性」が残ると指摘している。

「抗うつ薬のプラセボ対照試験での標準的な除外基準では、重症の患者、特に積極的な自殺願望がある患者は登録されない。そのため、これらの試験では自殺完遂数 がきわめて少なくなったと考えられる。こうした臨床試験が治験薬の臨床効果のエビデンスを得ることを目的にしているならば、この除外基準は、腫瘍や循環器での臨床試験において死亡リスクの高い患者を除外するというのと同じくらいに臨床的に矛盾していることになる」と編集者らは記している。

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