現役医師であり統合医療の第一人者である崎谷医師が、うつ病の症状・原因・治療に悩む方に対して情報を発信しています。
うつ病の医学ニュース(26)
北欧4カ国のSSRIの販売額の増加と、自殺率の低下に関連なし
北欧4カ国(デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン)では、1990−1998年の期間に抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の販売額が増加する一方、自殺率が低下したが、年ごとの自殺率の変化とSSRIの販売額の変化のあいだに相関はなかったことが報告されました(BMC Psychiatry電子版に2010年8月6日)。
分析では、4カ国の1990−1998年の期間を対象に、前の年と比べた自殺率の変化と、前の年と比べたSSRIの販売額の変化の相関を調べられました。その結果、自殺率の低下が大きい年でも、SSRIの販売額が増加した年もあれば減少した年もあった。一方、自殺率の低下が小さいか上昇した年でも、SSRIの販 売額が増加した年もあれば減少した年もあった。そのため、自殺率の変化と、SSRIの販売額の変化の間に、相関は認めなかった(相関係数=0.06)。
同じ期間に三環系抗うつ薬の販売額は減少したが、自殺率の変化と、同薬の販売額の変化の間に、やはり相関は認められませんでした(相関係数=−0.10)。
抗うつ薬の使用の増加と自殺率の低下に関係があるか否かについて、これまでの証拠は賛否両論あります。
1990年代に北欧4カ国でSSRIの販売額が増加したという論文中のグラフと、自殺率が低下したというグラフを両方見ると、SSRIの販売額の増加が「原因」となって自殺率の「低下」が生じたという「因果関係」があるように解釈しがちです。
しかし今回の研究では、年ごとの自殺率の変化とSSRIの販売額の変化に注目して、両者に関係がないことを示した点が重要です。
二つのグラフから見られる「相関関係」を、単純に「因果関係」として解釈することの問題点を指摘したデータです。
北欧諸国では、SSRIが導入される1990年頃より以前から、自殺率の低下が始まっているということです。
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