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現役医師であり統合医療の第一人者である崎谷医師が、うつ病の症状・原因・治療に悩む方に対して情報を発信しています。

うつ病の医学ニュース(36)

高所得国で高いうつ病の生涯有病率,日本は例外

18カ国およそ9万人を対象にうつ病の平均生涯有病率などについて調査しました。その結果,生涯有病率は中・低所得8カ国の平均が11.1%,高所得10カ国が14.6%と,高所得国の方が高いことが分かりました(BMC Med 7月26日オンライン版)。ただし,日本は例外で,生涯有病率では2番目に,12カ月有病率では最も低い結果でした。

世界保健機関(WHO)では2000年現在,障害調整生存年数(DALY)の損失要因の第4位にうつ病を位置付けており,2020年までに第2位になると予測しています。

今回,2001〜06年にWHOの世界精神保健調査を通じて集められた18カ国8万9,037人(18歳以上)の聞き取り調査データを基に研究を行いました。

対象国は次の通り所得別に2つに分けられました。「高所得国」は,ベルギー,フランス,ドイツ,イスラエル,イタリア,日本,オランダ,ニュージーランド,スペイン,米国の10カ国。「中・低所得国」は,ブラジル,コロンビア,インド,レバノン,メキシコ,中国,南アフリカ,ウクライナの8カ国。

うつ病の評価基準には,精神疾患の分類と診断の手引き第4版(DSM-IV)における「大うつ病エピソード」に従い,9つの症状のうち5つ以上が2週間以上継続することとしました。

その結果,国別に見たうつ病の生涯有病率は,フランス21.0%,米国19.2%,オランダ17.9%,ニュージーランド17.8%の順に高く,最も低かったのは中国の6.5%で,次いで日本の6.6%と,最も高い4カ国は最も低い2カ国の約3倍でした。また,所得別に見た場合,高所得国の平均は14.6%,中・低所得国の平均は11.1%と,うつ病の生涯有病率は高所得国の方が有意に高いことが分かりました(表,P<0.001)。

表(18カ国におけるうつ病の生涯有病率および12カ月有病率)

うつ病の12カ月有病率についても検討しました。その結果,中・低所得国のブラジルは10.4%と最も高く,続いてウクライナが8.4%でした。高所得国においては,米国が8.3%と一番高く,次いでニュージーランドが6.6%,イスラエルが6.1%でした。日本は2.2%と,18カ国中最下位でした。所得別では,高所得国の平均は5.5%,中・低所得国の平均は5.9%と有意差は認められませんでした(P=0.25)。

さらに,うつ病の発病年齢についても検討したところ,中国が18.8歳と最も若く,インドが31.9歳と最も高齢でした。日本は30.1歳と,比較的高齢でした。所得別に見ると,高所得国の平均は25.7歳,中・低所得国の平均は24.0歳でした。

社会人口学的要因とうつ病の発症についても検討されました。その結果,別居によるうつ病発症リスクのオッズ比(OR)はレバノンが19.3(95%CI,5.0〜74.4)と最も高く,次いで日本が10.8(同2.1〜55.6)など,18カ国中12カ国において有意に上昇することが分かりました。離婚によるうつ病発症リスクでは,高所得7カ国および中・低所得4カ国において有意な上昇が認められ,対象18カ国においては一貫してうつ病発症リスクと婚姻状態との強い関連性が確認されました。

日本のうつ病発症率が低いというのは、意外でしたが、フランス在住の方からは、周囲がうつ病ばかりというのはよく聞きました。人間は社会が複雑になるほど、人間が屈折してしまうのでしょう。うつ病が社会によって引き起こされることがよくわかる研究結果でした。

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