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現役医師であり統合医療の第一人者である崎谷医師が、うつ病の症状・原因・治療に悩む方に対して情報を発信しています。

うつ病の医学ニュース(42)

抗うつ薬:SSRI・SNRIに自殺リスク上昇認めず

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)fluoxetineおよびセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)venlafaxine(いずれも国内未発売)についてのプラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)41件をメタ解析した論文が報告されました(Arch Gen Psychiatry 2012年2月6日オンライン版)。その結果,いずれの年齢層でも自殺リスクの増加が認められなかっただけでなく,年齢層によっては低下も示されたといいます。

米国医薬品局(FDA)は抗うつ薬の自他殺のリスクを重大視し、2004年すべての抗うつ薬の添付文書において,小児期および青年期患者における自殺リスクの増加について黒枠警告で表示するよう各製薬企業に求めています。2006年には対象年齢枠が18〜25歳の若年成人期患者にも広げられています。

今回の論文では、大うつ病治療におけるfluoxetineおよびvenlafaxine投与と自殺リスクとの関連は,成人期および高齢期患者では有意な減少が確認された一方で,青少年期患者では有意な減少はなかったいう結果です。これを素直に受け止めると、fluoxetineおよびvenlafaxineに関しては、副作用といえる自他殺の可能性は低いということになります。

青少年期に関しては、自殺を軽減する薬効がないという結果です。他の抗うつ薬ではどのような結果になるのかを知りたいところですね。

論文の詳細はコチラ

→新タイプの抗うつ薬を使用したプラセボ対照RCTから,長期的かつ年齢層別の大うつ病患者対象の試験を条件とした。それにより,fluoxetineおよびvenlafaxineを用いた41件(9,185例)を抽出。薬剤および対象患者の年齢構成による内訳は,fluoxetineでは成人期12件(2,635例),高齢期4件(960例),青少年期4件(708例),venlafaxineでは成人期21件(短時間作用型2,421例,徐放性2,461例)。観察期間は5万3、260人・週であった。

自殺リスク(自殺念慮・行動)については,ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)または小児うつ病評価尺度改訂版(CDRS-R)のほか,副反応報告による自殺企図および自殺を対象とした。その結果,対象者9,185例のうち21例で自殺企図20件,自殺2件の報告が確認された。HAM-DおよびCDRS-Rによる特定16件,副作用報告6件であった。

プラセボ群に対する実薬群の自殺リスクを検討するため,薬剤および対象患者の年齢構成別に治療による自殺リスクの周辺最尤推定(MMLE)を算出した。また,治療開始8週の自殺リスクの変化率も求めた。

その結果,全41件のRCTにおけるfluoxetineまたはvenlafaxine投与による大うつ病患者の自殺リスクは,プラセボ投与患者と比較して投与期間の経過に伴い有意な減少が認められた〔治療による自殺リスクMMLE −0.2091,標準誤差(SE)0.0289,P<0.001〕。治療開始8週の自殺リスクの変化率はプラセボ群78.9%,実薬群90.5%の減少を示した。

同様に,対象患者の年齢構成別に解析したところ,fluoxetineでは治療による自殺リスクMMLEは,成人期患者−0.1689(SE 0.0644,P=0.009),高齢期患者−0.1479(SE 0.0688,P=0.03)と,いずれの年齢層でも有意な減少が認められた。両年齢層における治療開始8週の自殺リスクの変化率はいずれもfluoxetine群で10%前後多く減少していた。

青少年期患者ではfluoxetine投与による自殺リスクMMLEは0.0809(SE 0.0595,P=0.17)と有意差は認められなかった。また,治療開始8週の自殺リスクの変化率はプラセボ群61.3%,fluoxetine群50.3%と,プラセボ群の方が多く減少していた。

一方,成人期患者を対象に行われたvenlafaxineでは,短時間作用型と徐放性で個別に検討した。その結果,治療による自殺リスクMMLEは,短時間作用型venlafaxineでは−0.3777(SE 0.0650,P<0.001),徐放性venlafaxineでは−0.1501(SE 0.0565,P=0.008)と,いずれも有意な低下が示された。

また,治療開始8週の自殺リスクの変化率は,短時間作用型venlafaxineではプラセボ群81.0%,実薬群93.5%,徐放性venlafaxineでは順に77.1%,88.7%と,いずれも実薬群でより減少していた。

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