現役医師であり統合医療の第一人者である崎谷医師が、うつ病の症状・原因・治療に悩む方に対して情報を発信しています。
うつ病の医学ニュース(20)
抗うつ薬の便益はうつ病の重症度で異なる
現在、抗うつ薬(ADM)は大うつ病性障害(MDD)の標準的な治療薬ですが、比較的軽度のうつ病では、プラセボと比べて特異的な薬理学的効果が得られるというエビデンスはほとんどないことはすでに一般書にも載っています。
今回、ランダム化試験のメタアナリシスを行い、抗うつ薬の便益はうつ症状の重症度によって異なり、軽度〜中等度ではほとんど便益がなく、きわめて重度の患者のみに便益があるようだと報告されました(JAMA(2010; 303: 47-53)。
真の薬剤効果(プラセボと比べた抗うつ薬の効果) は、ベースラインの症状が軽度〜中等度の患者だけでなく、重度の患者においても、ないか、もしくは無視できるほど小さかったという結果でした。それに対して、きわめて重度の患者では大きな効果が見られたといいます。
一般の診療で抗うつ薬を処方されている大半の例では、この レベルの重症度を呈するまでに至っていないこと考慮すると抗うつ薬が効果があるという医師も思い込みのなせるわざといわざると得ません。
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→ 今回のメタアナリシスでは、うつ病と診断された患者について、初期症状の重症度別に、ADMの便益を検討した。
6件の大規模ランダム化プラセボ対照試験のデータ(総計718例の成人外来患者)を用いた。
うつ病に関するADM治療の効果が症状の重症度によってかなり異なることを見出した。真の薬剤効果(プラセボと比べたADMの効果) は、ベースラインの症状が軽度〜中等度の患者だけでなく、重度の患者においても、ないか、もしくは無視できるほど小さかった。それに対して、きわめて重度の患者では大きな効果が見られた。
薬剤の有効性の多くは、より重度のうつ病患者のみで検討した研究に基づき確立されたものであるが、処方者、政策決定者、消費者は、このことに気付いていないかもしれない。エビデンスのよりどころとした研究については、医師と国民にこれらの薬剤を販売する際に提示される暗黙のメッセージに は反映されていない可能性もあるとしている。また、今回および過去の研究(Kirsch I, et al. PLoS Medicine 2008; 5: e45,Khan A, et al. Journal of Clinical Psycho-pharmacology 2002; 22: 40-45)から得られた報告に反する知見が得られるまでは、臨床医と患者に対して「抗うつ薬はより重篤なうつ病には実質的な効果はあるが、あまり重篤ではない急性うつ病患者の大半には特異的な薬理学的便益を示唆するエビデンスは不十分であることを明確にすべきだ」と提言している。
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