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現役医師であり統合医療の第一人者である崎谷医師が、うつ病の症状・原因・治療に悩む方に対して情報を発信しています。

うつ病の医学ニュース(21)

抗うつ薬の種類によって自殺リスクに違いはない

抗うつ薬の種類によって、自殺関連事象のリスクに違いがあるのか否かを検討した調査報告がされました。調査は、カナダ・ブリティッ シュコロンビア州の住民を対象に行われ、結果は、10〜18歳の子供(Pediatrics 2010; 125: 876-888)を対象とした報告と、18歳以上の大人(Arch Gen Psychiatry 2010; 67: 497-506)を対象とした2つに分けて報告されました。

その結果、大人、子供とも自殺関連事象は、治療開始後6か月間で多く起こっていましたが、抗うつ薬のクラスは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を基準とし、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、三環系抗うつ薬、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬、そのほかの薬剤の間では自殺関連行動のリスクに差は認められないという結果でした。

米食品医薬局(FDA)は、2004年に小児・思春期の若者において抗うつ薬が自殺関連事象を増加させる可能性があるという警告を出し、24歳以下の若年成人においても同様のリスクがあるという警告を出しています。

今までの報告や私の経験からは、うつ病による自殺とSSRIなどの抗うつ薬服用による自殺とでは内容が異なるという印象を持っているのですが、それに関する研究も行ってほしいものです。SSRIなどの抗うつ薬服用による自殺は衝動的なものが多いのが特徴です。この自殺の内容をみることによっても、抗うつ薬かうつ病そのものが原因かが推定できるのではないでしょうか?

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→研究は、カナダ・ブリティッシュコロンビア州の全住民を対象としたコホート研究であり、医療サービスのデータベースが解析に用いられた。調査では、1997〜2005年の9年間に抗うつ薬を処方された住民の背景情報、自殺企図者数(自殺企図による入院)と自殺者数、処方された抗うつ薬などのデー タが解析されました。

処方された抗うつ薬のクラスは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が最も多く、おもにcitalopram、 fluoxetine、パロキセチン、セルトラリン、フルボキサミンが処方されました。SSRI間の比較では、fluoxetineを基準にそのほかの上記4剤のハザード比が算出された。薬剤クラス間の比較では、SSRIを基準とし、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、三環系抗うつ薬、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬、そのほかの薬剤のハザード比が算出された。解析は propensity scoreを用いた最新の統計学的手法を用い、処方選択に影響するさまざまな因子について補正をかけました。

期間中に抗うつ薬治療を開始された10〜18歳の子供は2万906人で、このうち1万6,774人(80%)は過去3年に抗うつ薬治療を受けたことがない群でした。この群は過去の治療歴による影響が最も少ないため、抗うつ薬治療による影響をより的確に推定することができると考えられました。抗うつ薬 が処方された最初の1年間で、3人の自殺完遂者と266人の自殺企図者が同定され、全体では1,000人年当たり27.04の発生率であった。

18歳以上の大人では、28万7,543人が期間中に抗うつ薬治療を開始され、このうち19万9,594人(69%)が過去3年に抗うつ薬治療を受けたことがない群であった。抗うつ薬が処方された最初の1年間で、104人の自殺完遂者と751人の自殺企図者が同定され、全体では1,000人年当たり6.06の発生率であった。

子供と大人のデータそれぞれにおいて、補正をかけない古典的解析では見かけ上、薬剤間に差が認められたが、補正をかけたpropensity scoreによる解析では、SSRIの各薬剤間、薬剤クラス間で自殺関連行動のリスクに差は認められなかった。大人、子供とも自殺関連事象は、治療開始後6か月間で多く起こっていた。

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