現役医師であり統合医療の第一人者である崎谷医師が、うつ病の症状・原因・治療に悩む方に対して情報を発信しています。
うつ病の医学ニュース(34)
うつも慢性炎症疾患
ミトコンドリアを活性化し慢性炎症を抑える九つの生活習慣でうつが改善する
(マキノ出版『安心』7月号(2011)掲載より転載)
ガンもうつ病も同じ治療法で治癒できる
うつ病は、遺伝や環境因子によって引き起される慢性炎症疾患の症状の一つである。こう言うと、きっと驚く人も多いでしょう。 慢性炎症疾患というと、関節リウマチのような難病を思い浮かべるかもしれませんが、実はあらゆる病気の原因と言ってもいいものです。
私はもともと脳神経外科を専門としていた医師ですが、病気の原因について究明していくなかで、こうした確信を持つようになりました。
例えば、従来の医療では「Aという原因でBという病気が起こる」といったように、病気の原因を直線的に捉えます。しかし、実際にはもっと多くの要因が複雑にからみ合っているものです。
具体的には、遺伝と環境因子の複合作用によって、体のさまざまな場所に慢性炎症が生じる。その中でも、脳の中心部にある視床下部や下垂体などの器官や前頭前野に慢性炎症が生じることで発症するのが、うつ病なのです。
どの病気も慢性炎症によって生じるという点は同じですから、うつ病のための特別な治療が必要になるわけではありません。ガンも難病もうつ病も、基本的に同じ治療法によって治癒に導くことができます。
では、どうやってうつ病を治癒すればいいのでしょうか?
慢性炎症の原因である遺伝と環境因子のうち、変えられるのは環境因子の方です。
環境因子としては、ダイオキシンや水銀のような有害物質や、いま問題になっている低濃度の放射性物質による汚染、病原菌やウイルス、電磁波、タバコの煙などのほか、精神的ストレス、食事、生活習慣も関係してきます。
こうした因子がカクテルのように混ざり合って、その人の体に影響している(カクテル効果)と考えてください。個人によって反応が起こるレベルが異なるので、悪い因子に囲まれていても平気な人もいれば、すぐに症状が表れてしまう人もいます。
いずれにせよ、こうしたカクテル効果によって病気が引き起こされる以上、その原因を一つ一つ取り除いていく必要があることはわかるでしょう。
なかでも大事なのは、すぐに実行できる生活習慣の改善です。よくない生活習慣をできるところから改善していくだけでも、環境因子のリスクを減らすことができます。うつ病の治療においても、大きな効力を発揮することになるのです。
まず細菌やウイルスの感染を防ぐこと
では、このうつ病を治癒するための代表的な9つの改善ポイントについて解説しましょう。
- 睡眠時は唇をテープで止めて鼻呼吸
まず、慢性炎症の引き金の一つである細菌やウイルスの感染を封鎖することです。日常では、口呼吸ではなく鼻呼吸を意識して行うようにしてください。口から息を吸い込む口呼吸をしていると、のどに細菌やウイルスが直接侵入して、扁桃腺に待機している免疫細胞(白血球)が防御し切れなくなります。それどころか、免疫細胞が細菌やウイルスの運び屋になることで全身の細胞にバラまいてしまい、これが慢性炎症の発症につながるのです。特に重要なのは睡眠時です。唾液の分泌がない睡眠時に、口を開けて呼吸すると、細菌の繁殖を促すことになりますから、口が開かないように唇を紙テープなどで止めて、眠るようにしてください。 - 朝一番に歯磨きをする
また、感染を防ぐという意味では、食後や寝る前、朝起きてすぐに、歯磨きを行い、口の中の菌を排除することも大切です。なかでも、睡眠中は口の中に雑菌が集まりやすいので、朝一番に丁寧に歯磨きを行うことをお勧めします。 - 冷たい物を取らない
冷たいものを控えてほしいのは、腸が冷えることで、腸に集まっている免疫細胞の働きを低下させてしまうからです。飲料や食品は、必ず体温(37度前後)以上に温めてから取ります。口の中でよく咀嚼することも、消化や温度アップに役立ちます。 - 水分(白湯)を多めに取る
加齢と共に、のどの渇きを感知するセンサーが鈍くなり、脱水傾向になりやすくなります。また、水をたくさん飲むことは、体にたまった毒素を排出させるために必要です。一度、1日の尿量を量り、その尿量分に1l加えた量の水を、毎日、少しずつ取るようにしましょう。もちろん、冷水ではなく白湯を取ってください。 - 朝夕に日光浴を行う
太陽光は、細胞内のミトコンドリアという活動エネルギーを生み出す器官を活性化させる働きがあります。ミトコンドリアの活性が必要なのは、さまざまな環境因子によって起こるミトコンドリアの機能異常が慢性炎症の原因となるからです。朝夕の時間帯に限定するのは、環境因子の一つである紫外線のダメージを避けるためです。午前10時前か午後2時以降の時間を選んでなるべく日に当たりましょう。 - 有酸素運動を行う
ウオーキングなどの適度な有酸素運動も必要です。これは、ミトコンドリアが産生するエネルギー(ATP)を適度に消費し、ミトコンドリアの酸素呼吸で作られる活性酸素の発生を防いでくれます。 - 呼吸法や瞑想でリラックス
このほか、慢性炎症は自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)のうちの交感神経(全身の活動力を高める神経)が緊張している状態で悪化します。ゆっくり深く息を吐く呼吸法を行ったり、朝の静かな時間に目を閉じて瞑想したりして、心身のリラックスを促すことも心掛けてください。 - 食べ過ぎない
また、摂取カロリーを抑えることも、慢性炎症の改善に効果があります。ハンバーガーやスナック菓子、精白された食品の摂取を控え、食べ過ぎないように注意しましょう。 - 睡眠を十分に取る
睡眠は、「骨休め」と言うように、立っている状態でかかる重力のストレスから体を解放させるうえで重要なものです。骨休めしないと、細胞の新陳代謝や造血が行われません。あまり眠れないときでも、あおむけになるようにしてください。
自殺未遂を起こした人が3ヵ月で仕事の相談!
私のクリニックを訪れるうつ病の患者さんのなかには、「薬物治療を長年受けているのにいっこうに改善されない」「むしろ症状が悪化してしまった」という人が数多くいます。
例えば、兄の暴力によるストレスで10年以上にわたり重度のうつに苦しんできたAさん(38歳・男性)が、自殺未遂をはかって私のクリニックに運ばれてきました。
肺炎を併発していたこともあり、すぐに入院の処置をとりましたが、この段階ですでに薬漬けの状態。SSRIなど数種類の抗うつ薬、精神安定剤などを服用していました。症状を改善させるには、まずこうした薬を減らしていかなくてはなりません。
減薬の指導をしながら生活習慣の改善を実行してもらったところ、3ヵ月ほどでひどかったうつ症状がほとんど見られなくなり、表情がとても明るくなってきました。意欲も出てきて、私に仕事の相談をするほど回復できたのです。いまは退院していますが、ここで挙げた9つのポイントを守っている限り、症状がぶり返すことはないでしょう。
自殺未遂を図るような重度のうつ病が3ヵ月で改善したことに驚かれた人もいるかもしれませんが、これは決してめずらしいことではありません。
うつ病は、数ある慢性炎症のなかでは比較的軽度のものです。慢性炎症を引き起す原因をよく理解し、一つ一つ取り除いていく努力をすれば、どんな人でも自然治癒していきます。
焦らず、ゆっくりと、それまでの生活習慣を変えていくようにしてください。
★9つの改善ポイント
- 口呼吸を鼻呼吸にする
- 歯磨きを徹底する
- 冷たいものを避ける
- 朝夕の日光浴を行う
- 体温と同じ水を多めにとる
- 適度な有酸素運動を行う
- 呼吸法や瞑想でリラックスする
- 食事の摂取カロリーを制限する
- 睡眠をしっかりとる
うつ病の医学ニュース(34)