現役医師であり統合医療の第一人者である崎谷医師が、うつ病の症状・原因・治療に悩む方に対して情報を発信しています。
うつ病の医学ニュース(43)
経頭蓋磁気刺激によるうつ病治療
経頭蓋磁気刺激(TMS)を利用したうつ病治療は、米国では2008年10月に薬剤抵抗性うつ病患者への治療法として承認され,わが国でも厚生労働省が薬事承認に向けた検討を始めたといいます。
経頭蓋磁気刺激(TMS)は、コイルから生み出される誘導電流が,大脳皮質を非侵襲的に刺激して抑うつ症状を改善させる治療法です。100〜200μsの瞬間的な電流をコイルに流し,それにより形成される磁場に伴う誘導電流で大脳皮質などを刺激し,活動性を変化させる治療法です。
これまで脳梗塞,パーキンソン病,ジストニア,耳鳴り,てんかん,統合失調症,強迫性障害など数多くの精神神経疾患への臨床応用が試されています。
近年,うつ病の病態生理として,PETやSPECTなどの脳機能画像検査を用いた研究により背外側前頭前野,前部帯状回,梁下野,前頭葉眼窩野,海馬,扁桃体などの部位で異常が確認されています。とりわけ前頭前野では,背外側前頭前野の代謝や脳血流の減少,梁下野および前頭葉眼窩野などの腹内側前頭前野の代謝や脳血流の増加が報告されています。
これまで最も多く報告されている副作用は,頭痛,刺激部位の痛みおよび不快感,一時的な聴力低下などだが,ほとんどの場合は刺激を終了すると,こうした副作用が改善することが分かっているといいます。
重篤な副作用としては,痙攣です。米国では,NeuroStar TMS Therapy®により延べ7,000例ほどが治療を受けていますが,1人20〜40回受けて6例が痙攣を引き起こしたと報告されており,発生率は,患者1人当たり約0.1%未満とされています。TMSによる痙攣は,刺激中か刺激直後に起きるようです。
原則としては,痙攣性疾患,脳動脈瘤クリッピングの既往,脳器質性疾患,ペースメーカーや補聴器などの医療機器を体内に埋め込んでいる人などはTMSの適応外です。
抗うつ薬と効果が差がないという報告もあり、今後うつ病治療の選択のひとつとなりそうですが、抗うつ薬同様、長期的影響に対する知見がまだ不足しています。
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