現役医師であり統合医療の第一人者である崎谷医師が、うつ病の症状・原因・治療に悩む方に対して情報を発信しています。
抗うつ剤の医学的根拠は薄弱(3)
抗うつ薬の臨床試験における出版バイアスの問題はすでに取り上げています(N Engl J Med 2008; 358: 252-260)。
今回、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬で、うつ病の急性治療に効果があるとされているreboxetineという薬剤で未公表データを含めた系統的レビューとメタ解析を行い、出版バイアスの影響を検討しされました(BMJ 2010; 341: c4737)。
Reboxetineは、英国立臨床評価研究所(NICE)のガイドラインにおいても、うつ病治療に有効として推奨されています。
今回解析の対象としたのは、二重盲検のランダム対照デザインで、大うつ病性障害が主診断の成人患者を対象とし、6週間以上の急性治療について検討した研究でした。
公表されているデータベースからは10の研究が基準を満たし、そのうち三つは不完全な報告であったため除外されました(未公表の研究データの収集は、 製造元であるファイザーからの協力が得られず難航したようです)。
しかし、公表されたデータからはreboxetineについて検討された4,600人のデータのおよそ3分の1にしかアクセスできず意味のある評価は不可能という予備報告を出しました。しかし、その後、製造元からの協力が得られ、10の未公表試験のデータが得られ、このうち二つの研究は今回の解析からは除外されました。
最終的に、13の研究が残り、4,098人の患者データが解析されました。2,256人がreboxetineとプラセボの比較、2,641人がreboxetineと選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)との比較を行っていました。
reboxetineはプラセボとの比較で寛解率〔オッズ比(OR)1.17、P=0.216〕に差はありませんでした。反応率については、研究間のばらつきが大きく、一つの入院研究は統計的な外れ値と見なされ、この研究を除外した際の反応率は(OR 1.24、P=0.07)プラセボと差がありませんでした。SSRIとの比較では、reboxetineは寛解率(OR 0.80、P=0.015)と反応率(OR 0.80、P=0.010)で劣っていました。
reboxetineは、プラセボとの比較では有害事象発生率(OR 2.14、P<0.001)と有害事象による脱落率(OR 2.21、P<0.001)で劣っていました。SSRIとの比較では、有害事象発生率(OR 1.06、P=0.667)に差はなく、有害事象による脱落率については薬剤間でのばらつきが大きかったようです。
公表データと未公表デー タを比較すると、公表データはプラセボに対するreboxetineの効果を99〜115%、SSRIに対するreboxetineの効果を19〜23% 過大評価していました。
現在の治療ガイドラインの多くは、ランダム化比較試験(RCT)のメタ解析を重要視しているが、出版バイアスはガイドラインの推奨を大きくゆがめる恐れがあります。
治療薬の臨床試験データのほとんどは製薬会社がスポンサーとなっており、今回も、製薬会社の協力がなければ、およそ4分の3のデータにアクセスす ることができなかった事実から、現在の医療が如何に製薬業界に支配されているかが伺えます。患者、治療者、政策立案者が、正しい情報に基づいた判断ができるようにするためにも、治療薬の臨床試験については結果の公表を強制することが必要です。
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