現役医師であり統合医療の第一人者である崎谷医師が、うつ病の症状・原因・治療に悩む方に対して情報を発信しています。
うつ病の治療P.10
ミトコンドリアの変調で気分障害が出現する
うつ病で問題になる気分や認知などは、最終的には中枢神経系や消化管に存在する神経細胞の活動によります。中枢神経(脳)には、140億個の神経細胞が存在し、軸索とよばれる神経ファイバーを伸ばし、その先端で他の神経細胞と結合します。この結合は、固定したものではなく、よく使う回路では結合が強化され、使用しない結合はなくなっていきます(これを「神経可塑性」と呼びます)。
神経細胞の結合間では、神経細胞間(シナプス)での神経伝達物質(モノアミン:セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン)の放出とそれの受け取りが行われています。神経細胞の情報の伝達は、最初に神経細胞の興奮という形で起こります。神経細胞の興奮は、神経細胞の枝(軸索)を伝わり、末端に達した時点でそこにあるカルシウムチャンネルという関所を開きます。そこにカルシウムイオンが流入すると、神経伝達物質が放出されます。つまり、神経細胞内のカルシウムイオン濃度が高くなると、神経細胞は興奮し、神経伝達物質を放出して、次の神経細胞に興奮を電波させていくことになります。
実は、この細胞内カルシウムイオン濃度は、細胞内に数百〜数千個存在するミトコンドリアという小器官(共生好気性細菌)によって調整されています。ミトコンドリアの変調によって、細胞内カルシウムイオン濃度が低くなると、細胞の興奮性が低下するため、抑うつ症状となって現れます。逆に細胞内カルシウムイオン濃度が高くなると、細胞の興奮性が高まり、躁(そう)状態になります(14)。
うつ症状と躁症状を繰り返す疾患(躁うつ病)の双極性障害では、ミトコンドリアのエネルギー代謝、特にエネルギーの通貨であるアデノシン三リン酸(ATP)を大量に産生する過程(酸化的リン酸化)に障害があると報告されています(15)。これはミトコンドリアの遺伝子に異常が起きて、ミトコンドリアの呼吸鎖と呼ばれる部分のタンパク質に異常が起こるために、電子が漏れ、酸素と反応して活性酸素種(ROS:以下「フリーラジカル」)が出来ることが原因です。
さて、ここからが本題です。うつ病を引き起こす慢性炎症の主役は何なのでしょうか?
参考文献
- American Psychiatric Association, Diagnostic and statistical manual of mental disorders 4th edition, Text Revision, (2000)
- Psychoneuroimmnology fourth edtion
- (14)Nature Neuroscience 1, 366-373(1998) doi:10.1038/1577
- (15)Archives of General Psychiatry, (61)(2004), 300-308
うつ病の治療P.10