現役医師であり統合医療の第一人者である崎谷医師が、うつ病の症状・原因・治療に悩む方に対して情報を発信しています。
うつ病の治療P.12
抗うつ薬ではうつ病は治らない
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)などの抗うつ薬で、慢性炎症の一連の反応の末端で起こっているモノアミンを操作することでは、うつ病のコントロールはできません。実際にプラセボと比べた抗うつ薬の効果は、軽度〜中等度ではほとんど便益がなく、きわめて重度の患者のみに便益があるようだと報告されています(16)。重度の患者においても、ほとんど効果がないか、もしくは無視できるほど小さかったという結果です。
また抗うつ剤のSSRI、SNRI(選択的ノルアドレナリン阻害剤)の過量投与で、脳内のセロトニン濃度が高すぎる事によって引き起こされる自律神経異常(頭痛、めまい、嘔吐など)、昏睡、死亡などのセロトニン症候群。そして、抗うつ剤SSRIの投与初期に多く見られる賦活症候群(SSRI-induced activation syndrome)では、不安、焦燥、パニック発作、敵意、衝動性、易刺激性、不眠、躁状態、軽躁、アカンジア(Akathisia oracathisia:特定の場所にじっとしていられない)の10症状が起こります。
2004年から2009年までにアメリカ食品医薬品局(FDA)に提出された医薬品有害事象報告を解析した結果、31の薬剤が他殺や暴力などを引き起こしていたことが分かりました(17)。そのトップ10の薬剤の中に、SSRIを含む抗うつ剤が4剤もランクインしています。実は、SSRIなどの血液中のセロトニンあるいはノルアドレナリン濃度を上昇させるという働きは、覚せい剤(麻薬の指定)コカインと同じです。これらの薬は、うつ状態を正常に戻すように調整するものではなく、コカインと同じように衝動性を高めてしまう場合があるのです。
抗うつ薬は脳の神経細胞間という極めて局所のセロトニンなどの神経伝達物質をターゲットにした部分最適です。しかし、それによって、さまざまな副作用が起こることが問題になるにつれ、「部分最適は全体の利益に必ずしもならない」ことが分かります。私たちの体そのものが複雑系(非線形)であり、単なる原因→結果という線形関係で終わる生体反応はほとんどありません。原因は多数の因子の相互作用であり、原因と結果は互いに影響を与え合っているという非線形な関係になっています。私たちの体は局所のレベルでさえ、ある物質が多いとその影響を減じる方向へ舵を切ります。たとえばセロトニンの濃度が高いと、その受容体の数を減らす(ダウンレギュレーション)か、セロトニンの取り込みを促進させたりして、なるべく影響を中和する方向に働きます。目的とする薬剤の効果を出すためには、このような中和作用を超える量を投与しなければなりません。それはやがて全体の破たんを来すでしょう。
最近になって、SSRIなどの抗うつ薬がBDNFを上昇させるという論文(18)も散見されるようになりましたが、結果的に抗うつ薬に効果がないことや重大な副作用を引き起こすことを考えればとるに足らない知見です。
参考文献
- American Psychiatric Association, Diagnostic and statistical manual of mental disorders 4th edition, Text Revision, (2000)
- Psychoneuroimmnology fourth edtion
- (16)JAMA, 303(2010), 47-53
- (17)PLoS One December 15, 5(12) (2010)
- (18)j.Neurosci., 20(24)(2000), 9104-9110
うつ病の治療P.12