現役医師であり統合医療の第一人者である崎谷医師が、うつ病の症状・原因・治療に悩む方に対して情報を発信しています。
うつ病の治療P.11
ミトコンドリアが慢性炎症のキープレイヤー
ミトコンドリアの中では、エネルギーや熱生産のために、私たちが摂取した食物から取り出した水素原子が陽子(プロトン)と電子に分かれて利用されています。このうち電子は、ミトコンドリアにある呼吸のチェーン(呼吸鎖)を、電線を流れる電流のように移動していきます。簡単に言えば、この電流の移動によってエネルギー(ATP)が生み出されます(ミトコンドリアの膜に陽子の勾配を作ることでエネルギーが作り出されます)。
最終的に電子は、細胞内に運ばれてきた酸素と反応し水となります。ここまでは、ミトコンドリアの正常なエネルギー産生過程です。ところが、この電子がミトコンドリアの電線をスムーズに流れなくなるときがあります。たとえば、私たちの体内でエネルギーの需要が少ない時は、電子が流れなくなります。エネルギーが必要でないときは、電子を流して作る必要がないからです。しかし、食物から取り出した電子はミトコンドリア内に運ばれてきます。電子が流れないと渋滞して停滞します。この状態が続くと、電子が電線から漏れ出る、つまり漏電してしまいます。ミトコンドリアの電線である呼吸チェーンから漏れ出た電子は、細胞内に運ばれた酸素と反応してフリーラジカルとなります。また電線そのものが壊れてしまう場合があります。これはミトコンドリアの遺伝子が損傷されている場合に、電線を構成するタンパク質(ミトコンドリア遺伝子から作られる)が変異することで起こります。この場合も、電流が流れないため、電子の漏れが起こり、酸素と反応してフリーラジカルが発生します。その他、感染や外傷などのストレス(酸化ストレス)によっても電線からのフリーラジカルの漏れが多くなります。
酸素呼吸とは、ミトコンドリアが慎重に取り扱われている酸素を作ってエネルギー産生することに他なりません。私たちのからだは酸素という“爆弾”を慎重に処理・運搬していますが、ミトコンドリアに手渡したそのときに、大きな爆発が起こり、エネルギーが作られます。その爆発の過程で不可避に爆弾の破片であるフリーラジカルが飛び散ってしまうのです。
感染、毒物、放射能、精神的ストレスなどは、最終的にミトコンドリアでのフリーラジカル漏出という「酸化ストレス」に変換されます。このフリーラジカルが炎症を促進する遺伝子をオンにし、慢性炎症が起こることによって、うつ病も発症するのです。
うつ病は大うつ病、小うつ病(気分変調障害など)に分けられ、それぞれに単極性、双極性障害があります。また大うつ病には最近日本でも増加していると言われている非定型うつ病(新型うつ病とも呼ばれる。興味あることには元気になる)もあり、これらの気分障害のスペクトラムはかなり広いのです。その理由としては、以上のような気分障害のベースに慢性炎症があり、慢性炎症に対する個人の防御機構(ストレス耐性を含む)の閾値が異なることが考えられます。
続きを読む:うつ病の治療P.12へうつ病の治療P.11