うつ病の治療・症状でお悩みの方へ

現役医師であり統合医療の第一人者である崎谷医師が、うつ病の症状・原因・治療に悩む方に対して情報を発信しています。

うつ病の治療P.9

うつ病の脳で何が起こっているのか

脳の機能変化では、うつ病では実際に持続的に視床下部─下垂体─副腎皮質(HPA)軸が活性化され、血液中のステロイドホルモン(グルココルチコイド)が高いことが分かっています(1)(2)。HPA軸の活性化はストレス学の創始者であるハンス・セリエが提唱したストレス応答反応なのですが、通常は時間が経つにつれ、活性が低下してきます。これは血液中の高いストレスホルモン濃度を脳が感知し、フィードバック機構が働くためです。うつ病の人では、このフィードバック機構がうまく作動しないために持続的にステロイドホルモンの血液濃度が高いのです(3)。

ステロイドホルモン濃度が持続的に高いことで、海馬などの神経細胞はアポトーシス(細胞の自殺)を起こして死滅していきます(4)(5)。また神経細胞の新生、成長に必要な脳由来神経栄養因子(BDNF)は、ステロイドホルモンによって低下することが分かっています(6)。すでにうつ病と診断されている人は、そうでない人より血液中のBDNF濃度が低いことが報告されています(7)。また、自殺企図を行ったうつ病患者さんを対象にした研究結果では、BDNFが著明に低下していたことも報告されています(8)。

このような生理学的な変化が脳の委縮となって、P.8の1.のような感情の変化や2.のような実行・行動機能の低下を来たしているのです。

それではうつ病に見られる痛みや全身倦怠感などの身体症状はどこから来るのでしょうか?これは風邪を引いたときに抑うつ症状になることや、肝炎の治療で用いるインターフェロンによって約半数以上にうつ病と同じ症状が出ることなどから、なんらかの炎症反応と抑うつ症状との関係があることが想定されていました。インターフェロンは感染などで起こる炎症反応時に、リンパ球から出されるサイトカインという物質です。

精神的ストレス、感染、化学物質などによる慢性炎症によって、リンパ球から炎症反応をオンにするサイトカイン(炎症性サイトカイン)が持続的に放出されることが、抑うつ症状の発症につながっていることが示唆されてきました。そして、実際、うつ病の患者さんの血液中の炎症性サイトカインはうつ病でない人よりも有意に高いことが分かっています(9)。

免疫と神経系との関連が研究され、従来の医学の教科書にも載っていないような大変興味深いことが次々と報告されるようになりました。近年の研究の結果、内臓で分泌されるインシュリン、ガストリン、グルカゴンなどのホルモンが脳の神経細胞でも分泌されていることが分かってきました(10)。これら神経細胞でも分泌されるホルモンと神経細胞が放出するドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなどの神経伝達物質を合わせて「神経ペプチド」と総称します。リンパ球が放出したサイトカインは脳の視床下部に働き、これらの「神経ペプチド」の量を変えて、免疫反応を調整することが分かりました。たとえば、炎症が強く起こり過ぎているときには、視床下部のHPA軸に働いて、免疫を抑えるように調整します。その一方で、脳に働いて発熱させて、さらに炎症を活性化させるように働く場合もあります(11)。

驚くことにリンパ球は、サイトカインという炎症性物質だけでなく、脳(下垂体)が分泌する神経ペプチドと同じものを分泌することが分かっています。成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、エンドルフィンなどの脳内麻薬など広範囲に及びます(12)。リンパ球の放出する神経ペプチド、さらにリンパ球は、それらの神経ペプチドの受容体を持つことも明らかにされました(13)。このように脳以外にも全身に慢性炎症が起こることで、脳やリンパ球から神経ペプチドが放出され、抑うつ症状や全身倦怠感や痛みが出るのです。偏頭痛、過敏性腸炎、慢性疲労症候群、線維性筋痛症、全般性不安障害などに伴う抑うつ症状も、慢性炎症からサイトカインを通じて、脳からのステロイドホルモン、脳やリンパ球からモノアミン(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど)の変化が起こることで説明がつきます。

したがって、従来の薬物療法の根拠となった「モノアミン仮説」あるいは「モノアミン受容体仮説」というのは、慢性炎症の一連の流れの末端のさらに一部の変化を見ているにすぎません。「モノアミン仮説」あるいは「モノアミン受容体仮説」とは、神経細胞間(シナプス間)のセロトニンやノルアドレナリンといったモノアミン神経伝達物質の枯渇あるいはモノアミン受容体の増減によってうつ病が発症するというものです。

参考文献

  • American Psychiatric Association, Diagnostic and statistical manual of mental disorders 4th edition, Text Revision, (2000)
  • Psychoneuroimmnology fourth edtion
  • (1)Nature, 386(1997), 824-827
  • (2)J. Neurosci., 12(1992), 3628-3641
  • (3)European Neuropsychopharmacology, 5(1)(1995), 77-82
  • (4)J. Psychiatry Neurosci., 29(6)(2004 November), 417?426
  • (5)Neuroscience, 104(1)(2001), 57-69
  • (6)The Journal of Neuroscience, 15(3), (1 March 1995), 1768-1777
  • (7)Journal of Affective Disorders, 101(2007), 1-3
  • (8)QJM, 104(5)(2011), 455-458
  • (9)Eur Neuropsychopharmacol., 18(3)(2008 March), 230?233
  • (10)Diabetes, 49(11)(2000), 1766-1771
  • (11)Cell Immunol., 132(1)(1991), 84-93
  • (12)Prog. Allergy, 43(1988), 68-83
  • (13)Physiolog. Rev., 69(1)(1989), 1-32
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